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【映画】☆4 インサイド・ジョブ 世界不況の知られざる真実

 

 

 

「大衆の損失で 彼らは大儲けした」

 

 

 

最近スカーフェイスタクシードライバーゴッドファーザーと暗黒殺人映画3コンボで気持ちがどす黒くなっていたところ、穏やかなドキュメンタリーでも見ようと思って適当に選んだ1本が、なかなか唸らせる編集・内容でした

ということで今回ご紹介するのは、インサイド・ジョブ 世界不況の知られざる真実(2010)

評価:☆☆☆☆ 誰がババを引くか

 

 

 

タイトルだけでも内容を把握できそうですが、リーマンショックを中心に金融業界のきったなさと経済崩壊の一部始終を描いたドキュメンタリー作品になっています。シンガポール首相から大学教授まで、多くの人物にインタビューを行っていますが(横文字のオンパレード!)、その都度役職と人名が出るので混乱しづらい。長い全体は5章に区切られていて章と章の間には小気味よい音楽が流れるので飽きないし、一回切り上げることもできる。ドキュメンタリーのイメージ、冗長でテンポが悪いところが解消されています。1時間30分以上ありますが、見始めたらあっという間でした。基本的に政治経済の話はクソつまらないはずが、あまりにサブプライムローンのシステムが異常すぎてそれも吹き飛びます

 

 

 

そもそもアメリカは暗黒の木曜日世界恐慌を目の当たりにして過度な投資をさせないよう厳しい規制をかけてきたつもりが、圧倒的なカネの力によるロビー活動によってそれも次第に緩和。銀行は統廃合を繰り返し、肥大化していきます。で、肥大化するとマネーパワーはより強くなり、政治に食いこむようになり、規制緩和が進み...

やがて顧客の預金もギャンブルに使っちゃう預金投資や、そもそも投資が主目的の預金銀行が出現。気が付いたときには時すでにお寿司、マフィアの資金洗浄や違法な海外送金などやりたい放題。そしてなにより統廃合がもたらした結果は、「潰れそうになっても政府が救済してくれる」というありえない慢心です。某日本国にも絶対に潰れないJALという会社がありましてね...

したがってリスクを取るほど儲かるという異常な状態が業界を支配していくわけです。証券マンに金を握らせ、顧客にクズ株を売り、儲かった金で銀行マンはヤクに買春にやりたい放題。まさかの売春婦本人(正確には経営者)がインタビューに登場し、彼らの放蕩ぶりを赤裸々に暴露していきます。これはさすがにかわいそう...

 

 

 

こうして以上に膨れ上がったいびつな金融産業は、やがて21世紀最悪の金融危機を引き起こすのです。まずここで大事なのが、規制緩和によって出現した証券化という技術です

AさんのBさんへの借金100万円を証券化すると、Cさんが90万円で買いたいと言ってきたので渡す。そうするとCさんはBさんに代わって、Aに100万請求できるというわけです。SANを打つのが面倒になってきました。Aは支払先が変わるだけで特に不都合はありませんが、Bは回収できるかわからなかった借金のうち90万だけでも回収できてラッキー、Cは90万円で買った証券で100万円の支払いが受けられてお得!

こんな濡れ手で粟の金融商品に、投資銀行が手を出さないはずがありません。ここに悪夢のはじまりです。まず「サブプライムローン」という名の通り、証券化の対象になったのは家のローンです。まずは借金してくれないと始まらない! 金にまかせて全米でキャンペーンを撃ちまくり、「夢のマイホーム」「アメリカンドリーム」とひたすら家の購入を煽り立てます。なんと全盛期のローン比率は99%というバケモノぶり、つまり99%を借金で家を買うのです。悪魔か

 

 

 

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しあわせ家族で釣るのはどこも同じか

 

 

 

そうして得た大量のローンを投資銀行がまとめて証券化、ズブズブの格付け会社はそれにAAAランクを与えます。AAAランクは国債とほぼ同じ、つまり絶対に焦げ付かないということを意味します。そしてそれが市場に出ていく...。人はこれを詐欺という。この方法で大儲けするものが続出する中で、一つの欠点がだんだんと明らかになってきました。それは、借主がローンを払えなくなればすべてが終わるということ。そして99%を借金してまで家を買う人間が、果たして完済できるのか。先生無理です!

先ほど一つの欠点と言いましたがそれは格付け会社による嘘です。もう一つ、銀行も大きな問題を抱えていました。元来何があっても破綻しないように、そして預金が引き出せなくなる事態を避けるため、資産と借金は1:1で調整されていたはずが、規制緩和によって比率は驚愕の1:30! 資産価値が3%減ったら破綻だね!

という、誰が最後にクズ証券を手にするかというババ抜きが始まっていたということです。最後にババを持っていた人は数億ドルの罰金、人生ゲームで言えば車没収&ルーレット禁止&あるだけ借金手形を入手という状態に移行します。この時ばかりはボードをひっくり返しても許されるでしょう

 

 

 

以上、事の顛末はあまりにあっけなく、みなさんの知るとおりです

責任が結局うやむやになるのは日本特有だと思っていましたが、どうやらアメリカも同じ状況のようです。去年だったか一昨年だったか、「上級国民」というあやしいワードが流行った時期がありましたが、彼らはまさにそれにあたるんじゃないでしょうか。騒動後も一切責任を取らず、のうのうと辞職します。退職金もちゃっかり貰い、もちろん顧客を騙してもらった高給を賠償にあてたりは一切なし。面の皮の千枚張りです。おそらく数百万人単位の人生を終了させたはずですよね。彼らの来世に期待したいところです

 

 

 

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 満を持してのブッシュ政権か、あるいはたまたまその時弾けたのか

 

 

 

なおも恐ろしいのが、今もってアメリカ合衆国ウォール街に支配されているというとこと。トランプさんが任命したのも結局ウォール街出ですしね。彼らの「反省した、もう二度とやらない」という発言は、警察24時万引き常習犯並に信用できません。おそらく内実は何一つ変わっていないのでしょう。最終章はなかば呆れ気味に終わります

 

 

 

はい、ということでいつもと毛色を変え、ちょっと勉強になる映画を紹介しました。差し押さえ状が貼られ荒れ果てた夢のマイホーム、まだ増えるだろうねとテント村で気丈に笑う男性。ドキュメンタリーでしか描けないリアルな「現実」がそこにはありました。ただ、インタビュアーがやたら手厳しいこと、取材がぶつ切りで恣意的に見えることがありまして、ちょっとそこに?を感じてしまったのがありました。それをされて当然というか、●されても文句は言えないんですけどね...。あとは、世界経済の話になっても日本が登場する機会がまったくもってないこと。ジャパン・パッシング...ではないしょうが、中国、中国、中国でなんとも物悲しいものです

今や教科書の1ページ丸々に乗るようになった「サブプライムローン問題」。普段よく目にする、耳にすると思いますが、正直「ヤバかった」という印象しかないと思います(失礼)。しかしこれほど面白い経済の話の題材はないと思うので、ぜひ入門として映画で追ってみてはいかがでしょうか。感想としてはたぶんみんな同じく「経済界全部糞」に行きついてしまうと思いますが。大いにオススメ! AAA!