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【映画】☆3 ヒトラー 最期の12日間

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久々のレビュー15本目はヒトラー 最期の12日間(2004)

「最後の」ではありませんよ

評価: ☆☆☆ 堅物

 

 

ソ連軍の進撃が迫るベルリン、地下司令部にまで追い詰められたヒトラーとその部下たちの生活を、秘書ユンゲ視点から描いた歴史ノンフィクション映画

 

 

 

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 「私の命令は届かない こんな状態でもはや指揮は執れない」

だいたいこの手の映画が「ナチス怖いヒトラー酷い」といった感じにまとまっているのと対照的に、この映画はむしろヒトラーの苦悩に重点を置いています。それも擁護ではなく(ドイツ映画なんであんまり賛美正当化できません)「ヒトラーってこんなに惨めだったんだぜー」という感じです。そりゃ赤軍が数百メートルの所まで迫り、頼みの綱の第9軍が包囲され、部下が次々裏切って逃げ、挙句勝手に停戦交渉まで始めちゃったら悩みますよね。負け戦の時のトップはつらいんですよ

 

 

 

したがって吠えるし手は震えるし無茶な命令を出すし、全盛期の勢いはどこへやら、総統閣下ご乱心です。頬はこけ顔面蒼白で乱れた髪、党大会でのあのキビキビした感じは外見からは全く想像がつきません。負けがこんでくると疑心暗鬼になるのは世界共通なんでしょうか。逐一部下を裏切り者扱いし、処刑をちらつかせてありえない命令に従わせようとします

しかし将校はどうでしょうか。日本の軍部トップが割と暴走したのに対して、逆にドイツ側は冷静です。ヒトラーの「降伏はありえない」という意見に果敢に立ち向かい、後退をひたすらに勧め、一蹴されても「今のはご本心ではない」ときっぱり。玉音盤も盗みません。はじめは「おっぱいプルンプルン!!」と力強い反論で部下をねじ伏せていたヒトラーも、いよいよ負けが込んでくるとかつての生気がなくなり、ひどく落ち込んだ様子で弱弱しく一言しゃべるのみ。ヒトラーに戦果報告をぶつけ続けると死ぬ

 

 

 

「誰が兵士や市民の面倒を見る?」 「知りませんよ」

そんな総統の様子に、絶対の忠誠を誓った将校たちでさえも敗北を実感し始め、壕内はひどく陰鬱な空気に。砲撃の間隔も次第に短くなり、ちょっとした散歩にも行けないほどの猛攻撃が始まります。避難よりも攻撃を優先しろとの命令により、市内には年寄り子供含めた多くの市民が放置され、廃墟と化した建物の地下に身を寄せ死を待つばかり。若いものは女子供でも民兵決死隊として戦闘に加わるも、ろくな訓練もうけていない彼らは次々にソ連兵の餌食になります

 

 

 

ナチを冷血の鬼のように描いていた「戦場のピアニスト」とは偉い違って、当たり前ですが彼らにはまともな「人間」がちゃんといます。役職ほっぽりだして女にかまけたり、敗北秒読みの状況を酒でごまかしたり、そういった意味での人間臭い人物たちです。そしてユダヤ人を救ってくれるあの軍人さんのような正義感にあふれる人物も同様に存在します(あの人この映画にも出てます)。教授であり軍医でもあるシェンクは仲間が撤退する中一人残り、地下病院でけが人の手当てを続けます。とにかく総統が撤退を許さないので廊下まで負傷者でいっぱいです。治療法もとりあえず切断というナポレオン以前の医療に逆戻り。この映画では「秘書」「少年兵」「軍医」「将軍たち」の4つの群像劇で猛攻を受けるベルリンが描かれますが、それぞれの自分の葛藤と闘いを持ち合わせています。彼の場合はもちろん手術という闘いです。死に物狂いで闘う部下たちと静かな司令部、という対比形式で話が進んでいく構成です

 

 

 

 「時はきた 終わりだ」

そして敵軍の進軍を目前にして、ヒトラーがとうとう自殺。ユンゲに遺言の速記を頼みますが、最後までユダヤ人に悪態をつくところがまた彼らしい。妻エヴァをはじめとする付きの者たち、そして将校たちナチ関係者らも後を追い、次々に倒れていきます。最後までおそばにと願った秘書もここにきて坑内からの脱出を決意。ソ連軍団の包囲の穴を探しもはや廃墟と化したベルリンからの脱出を画策します。襲撃を受けながらもなんとか逃げ延びた彼女はまだ機能を維持するドイツ軍の砦にたどり着きますが、すぐにソ連軍の大軍団がやってきます。降伏しようとする者たちと、銃を取り徹底抗戦も辞さない熱き信奉者たち。それぞれの思惑が交錯する不気味な静けさの中、敵が入城してきます。果たして彼女は無事生きて脱出することができるのでしょうか

 

 

 

壕内でそれぞれが自決していくシーンはかなりあっさりです。「硫黄島からの手紙」のように、盛大に吹っ飛んだりはしません。それでも、ゲッベルスの妻が嫌がる子供たちに睡眠薬を飲ませ、眠った彼らに毒薬を噛ませていくシーン。そのあと、こと切れた子供たちの顔を隠すために布団を顔まで上げていくのですが、布団のサイズが身長ピッタリなので足がニュッと出るんですよ。まだ小さい足が。狙いすぎ感はありましたが、ここはちょっときましたね。戦争につきものの悲劇です

 

 

 

「猛攻撃されたら5分と持つまい 目を覚ませもう負けだ!」

個人的には「硫黄島からの手紙」的な、籠ってはいても戦闘シーンとの半々だと思ったら、もう8割が灰色の地下での会話・会議シーンでした。史上最も灰色なカラー映画にノミネートしておきます

一応申し訳程度に攻撃されている場面はありますが、それも砲撃なので見えるのはしょぼい土煙だけ。ずるい、ソ連軍ずるい。終盤までソ連軍ががっつり姿をあらわすシーンがなく、敵影がちらりと見えるだけ。ソレチラです。ソ連軍というと略奪強姦なんでもありの集団という勝手なイメージがあったのですが(ハンニバル・ライジング)、今作では立派な兵隊さんというイメージです。むしろSSの暴走や、露骨な敗戦ムードを酒とタバコでごまかすドイツ軍人の方がだらしないという印象を受けました。ドイツ側から描いたはずなのにこれは珍しいですね

 

 

 

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大一番負けそうになったら

 

 

 

キャストは、主人公ユンゲが容姿で選ばれる秘書、ということもあって美男美女のバーゲンセール。同じ美男美女でも「スターリングラード」で見られるような戦争の泥臭さはありません。外壁が残っているうちは建物なんです。建物は燃えていても外装はほとんど無傷だし、道もあれだけ砲撃食らっても平らです。坑内はもちろん清潔で上質な服をまとっているし、酒も食べ物も豪華そのもの。司令部を出てからもそこまで苦労してなさそうだったので、彼女は運に恵まれていたんでしょうか

 

 

 

ヒトラーがどういう人間かというのをピンポイントで知るぶんにはいい映画なんじゃないでしょうか。ただ、歴史ものとしては面白いですが娯楽としての映画の面ではめちゃくちゃつまらないです。どちらとして見ても面白い「戦場のピアニスト」とは違いますね。「最期の」と言いつつ死後もちゃんと描かれます。しかし、ベルリン攻防戦という大きいテーマをほとんど灰色の地下壕で消費したのはもったいない。だったら別の映画見ろというのはごもっともです。せめて山根基世のナレーションがないと静かすぎてやっていけません。戦場はあんな地獄だったけど地下壕では淡々と作戦司令が行われていたよを延々やって終わりです。さしずめ「上は天国現場は地獄」はいつの時代も変わらない、これに尽きるということです

 

 

 

史上最も灰色かつすべてが地獄の映画

 

 

追記:割と「戦犯」たちが長生きしているのに驚きました。重要職についていた者は、自害を除いては処刑か死ぬまで強制労働って感じだと思っていたら、数年そこらで釈放されて還暦を迎えている人物が普通にいます。正直ヒムラーぐらいしか覚えていないかったので、エンドクレジットで登場人物たちのその後が簡単に説明されて勉強になりましたね

 

 

 

 

ちなみに開戦